精神疾患について考える(その22)~自律神経の働きについて詳しくみてみよう ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)~

精神疾患について考える

0.はじめに

前回のお話し

うつ病はよく自律神経のバランスが崩れた状態といわれるけど、いまいち原理がわからないなー。
うつ病は交感神経が優位という人もいれば、副交感神経が優位という人もいる しどっちが正しいのかわかんないー。

非定型うつ病(パニック障害など)は交感神経、定型うつ病は副交感神経だね。
私は、治りにくいとされる定型うつ病(メランコリー型)で、
「交感神経高いから、副交感神経高めないと!」
ていう医者いてさ。
血圧100以下で、交感神経高くねーって。
ま、まぁ、これは、 ポリヴェーガル理論 という考え方で説明できるみたいだよ。

へー。舌をかむ難しそうな名前ね・・。
人の名前かしら?

ステファン・ポージェス 博士 って人がつくったみたいだよ。

では、今回は 自律神経のメカニズム「ポリヴェーガル理論」 についてみていこう。

1.自律神経についてのおさらい

まずは一般の自律神経のバランスについておさらいからだよ。

人体には多くの神経細胞が配線のように張り巡らされており、いくつかの神経系統が存在します。
なかでも、自律神経系統は身体調整、感情、生命維持(ホメオスタシス)に関わっており、精神疾患と最も深い神経系統になります。
自律神経には、交感神経と副交感神経があり、それぞれ相反する作用があります。
交感神経と副交感神経が作用することで、身体の生命活動のバランスが保たれています。

交感神経系

身体を活発に活動させるときに働き、運動、恐怖、不安、怒り、興奮などに作用します。
緊急時には、極度に活性化し、手足の筋肉と心臓、肺、気管支に血液とエネルギーが集中することで、走ったり、闘うことができます。
心理・生理に及ぼす症状としては、不安、パニック、過活動、大げさに驚く、過剰警戒、リラックスできない、そわそわする、消化機能不全、下痢、不眠、怒り、感情が押し寄せる、慢性の痛みなどです。

副交感神経系

交感神経が活発になって、覚醒・興奮状態になった身体を休ませ、リラックスさせる神経系です。
副交感神経が優位になっている時には、休息、消化、睡眠、排泄、生殖機能、身体の回復などが行われます。
身体が落ち着いている時には、胃液・膵液の分泌、腸の蠕動運動、唾液分泌、心肺機能抑制、排尿促進、血管拡張などが起きます。
ストレス過剰になると、「凍りつき」という超省エネモードになり、身体を守りに入ります。
心理・生理に及ぼす症状としては、鬱、感情麻痺、無気力、倦怠感、生きていないような感覚、疲弊感、慢性疲労、方向感覚消失、乖離、複雑症状、痛み、血圧低下、消化機能低下、便秘などです。

CAN ( central autonomic network :中央自律神経網)

自律神経の調整は、視床下部で行われているという考え方が一般的でした。
近年は、島皮質ー視床下部ー大脳辺縁系で構成されたネットワークCAN( central autonomic network :中央自律神経網)で行われているという考え方が提案されています。
全身の体内感覚を島皮質で感知し、その情報を元に視床下部が指令を出すことで交感神経を高めます。
また、興奮した交感神経を抑制し副交感神経を高めるのが、前頭前野になります。
自律神経系は、CANと前頭前野の力関係によってバランスが保たれているといった考え方がCANです。

2.ストレスと防衛反応

ポリヴェーガル理論を理解するには、まずストレスと防衛反応について知っておく必要があります。
ストレスには、機能不全家庭など環境から受ける「慢性ストレス」、交通事故、強姦、恐怖、驚きといった突発的な「急性ストレス」があります。
これらのストレスに対抗するための防衛反応として、交感神経が過剰に働く「闘争・逃走」、副交感神経が過剰に働く「固まり・麻痺」が起こります。
「闘争・逃走」反応は、 ノルアドレナリンが分泌され、交感神経が高まった状態で、闘うあるいは逃げる、パニックになるといった状態です。
「固まり・麻痺」反応は、アセチルコリンが分泌され、副交感神経が高まり解離、うつ病、気絶といった状態を引き起します。
交感神経、あるいは副交感神経がどちらかに過剰に働いたとき、PTSDあるいは解離性障害を引き起し、行動、感情などのトラウマ症状を引き起します。
ともに自律神経が乱れた状態で、交感神経が優位な状態だと、不安、恐怖が強くなり、全般性不安障害、パニック障害、非定型うつ、フラッシュバック的な症状が生じ、副交感神経が優位になると、定型うつ状態、解離性障害といった症状が起きてきます。

防衛反応:闘争・逃走

交感神経UP
恐怖、不安障害、フラッシュバック(PTSD)

防衛反応:固まり・麻痺

副交感神経UP
うつ病、気絶、解離性障害(離人症・健忘)

このページでも少し出てきた話しね。

3.ポリヴェーガル理論とは~3つの神経系統からなる理論~

1996年、ステファン・ポージェス博士 が発表した、ポリヴェーガル理論 (Polyvagal Theory::多重迷走神経理論) は、多くのトラウマ治療の提唱者にとって、自分の開発した手法を神経生理学的に説明することが可能になった革命的なものでした。
Polyvagal とは、多くの(Poly)と迷走神経(vagal)を統合させたポージェス博士による造語です。
現在、欧米の心理学関係の世界ではメジャーな理論になっているそうです。

ステファン・ポージェス博士


自律神経系は、交感神経と副交感神経の両者のバランスによって、環境が変化しても身体の状態を一定に保つ恒常性(ホメオスタシス)システムとして考えられてきました。
しかし、 ポージェス博士 の理論では、これまでの自律神経系の中に「社会神経系」といった新たな概念を持ち込み、3つの神経系によって環境への対応、危機管理システムが構成されている・・と考えていることです。

3つの神経系

迷走神経とは、脳幹の延髄に神経核を持ち、12ある脳神経の一つ、第10脳神経に該当します。
最も大きな神経で、内臓のほとんどと繋がり、一般的にいわれる副交感神経は迷走神経に属しています。

ポージェス 博士は、 従来、副交感神経として分類されていた神経を、延髄の疑核を起点とする腹側迷走神経複合体、延髄の 孤束核 を起点とする背側迷走神経複合体に分けました。
迷走神経だけでなく、他の神経系とも組み合わされているため、「複合体」と呼びます。
つまり、3つの神経系とは具体的には「交感神経」、「腹側迷走神経複合体」、「背側迷走神経複合体」になります。
このうち、「社会神経系」に該当するものは、腹側迷走神経複合体です。
これら3つの神経系が生命の危機が到来したとき、防衛反応として階層的に使われていきます。

脳幹内の神経系統

・背側迷走神経複合体・・・最も古い神経系 固まり、麻痺モード

背側迷走神経複合体は、単細胞生物にも存在する最も古い副交感神経です。
横隔膜より下にあり、適度に働いている時には、「リラックス、休息モード」が働き、消化、睡眠、排世、生殖機能、身体の回復など行います。
生命が危険に犯された時、防衛反応として「固まり・麻痺モード」状態を作動し、シャットダウン、失神、うつ病、解離性障害、いつも疲れる、引きこもりといった症状が起こることになります。

・交感神経系・・・闘争・逃走モード

交感神経系は、背側迷走神経複合体の次に発達した神経系で、運動や活動しているときに働いていますが、緊急時には「闘争・逃走モード」が働き、牙をむいて闘う、逃げ出す、緊張、興奮、パニック状態、不眠、PTSDの原因になります。

・腹側迷走神経複合体(社会神経系)・・・最新の神経系 社会友好モード

系統学的には、人間を含む哺乳類だけに発達した最新の神経系です。
横隔膜より上にあり、目、表情、声質、声帯、口、顎、頭、心臓、肺などの働きに関わり、他者との意志疎通、自己鎮静など社会的な繋がりを促す「社会友好モード」に使われます。
危機が訪れても、冷静に行動し、周囲の人間との強力体制をとろうとします。

私達の生命の危機が訪れたときの反応の順位は、進化の段階の新しい腹側迷走神経複合体から作動し、これで対応できない場合は、交感神経系、さらに対応出来ない場合は背側迷走神経複合体が作動していきます。
例えば、日常生活では、腹側迷走神経系が働き、人との社会的なコミュニケーションを保っています。
しかし、突然、強盗が家の中に入ってきたとします。
最初に、強盗を説得し、話し合いに持ち込もうとする場合は、腹側迷走神経が優位な状態になります。
話し合いで決着がつきそうでない場合は、交感神経系が優位となり、逃げる、闘う、大声で叫ぶ、あるいはパニック状態になるといった防衛反応が働き、それもできないとなると、背側迷走神経系が優位となって身体は硬直し、失神、解離状態になるように働きます。
いずれの神経系の働きも、生き残るために必要な防衛反応として働いているというのが、この理論の考え方になります。


4.まとめ

定型うつ病は、いかにして優位になった背側迷走神経複合体を元に戻すかってことが克服のカギね。

背側迷走神経複合体をリセットできるから定型うつも克服可能!

 

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